ネオコン(Neo Con)・新保守主義と新国際秩序について

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ネオコンの淵源は左派

米国のイデオロギー集団に「ネオコン」と称している組織がある。ネオ・コンサーヴァティズム(NeoConserv

atism)を「ネオコン・新保守主義」と短縮したものだ。しかし、この通称は必ずしも実態を表しているとはいえな

い。伝統的保守主義とはまったく別の思想的根源を持つ政治的政策集団だからである。

その思想的発祥は20世紀初頭まで遡ることができる。反スターリン主義など左派が淵源であり、それが20世

紀中葉には民主党の一部を構成するリベラル派へと変遷した。さらに、保守に遷移して共和党のタカ派・右派

を構成することになった。現在、民主党にも人道的なる軍事力行使を優先する(介入主義)思想を持つ人たち

がネオコンの一部として影響力を行使している。

オバマ民主党政権もヒラリー・クリントンもネオコンに寄生されている。2024年11月に行なわれた大統領選

では民主党はネオコン化した。元来、民主党は軍産複合体と親和的である。

 

軍事力行使を優先するネオコン

1960年代、共和党の大統領候補ゴールド・ウォーターは次のような演説をした。「自由を守るための急進主義はいかなる意味においても悪徳ではない。正義を追求しようとする際の穏健主義はいかなる意味においても美徳ではない」と。以来、米国式の自由と正義を守るためには武力行使をためらうなということのようだが、ネオコンはこの思考様式を受け継いできた。

ネオコンと自称するようになったのは、理論的先導者である「ナショナル・インタレスト」誌発行人のアーヴィン

グ・クリストルといわれる。1980年代のことであり、このころからネオコンの思想は拡散していった。

 

米国特殊論

A・クリストルは、「アメリカは世界の警察官、あるいは保安官、同時に灯台であり案内人ではなくてはならな

い」と米国特殊論を展開している。この特殊国家論は米国を見習えというような軽い問題ではない。米国の世

界覇権を認めよということなのだ。

このアメリカ特殊論は一貫しており、米国の行動は軍事力の行使を含めてアメリカの理想の伝搬にあると考

えている。それゆえに欧州とは考え方の違いがあっても米国式の理想主義の実現として押し切ることが多い。

ネオコンの思想的主軸は「自由主義、民主主義、グローバリゼーション(アメリカニゼーション)にある。アメリ

カを理想国家と位置づけ、「アメリカの大義は全人類の大義」と捉えている。理想主義と自己利益を同一と位置

づけ、目的は「世界はアメリカであり、アメリカは世界である」と捉えた世界覇権にある。

ネオコンの総帥は、ブッシュ大統領(Sr)の時期に国防長官、ブッシュ大統領(Jr)時には副大統領を務めた

ディック・チェイニーといわれている。当然というべきか娘のリズ・チェイニー上院議員もネオコンの一員である。

「文明の衝突」を著したハンチントン、および「歴史の終わり」で話題を提供したフランシス・フクヤマもネオコン

に属する論客である。カラー革命なる民衆の国体変化を資金面で支えた投資家ジョージ・ソロスもネオコンの

中心人物の一人である。

 

関連シンクタンク

ネオコンの政策の影響下にある組織として以下のようなものがあげられる。

*「ナショナル・インタレスト誌」・1985年創刊。発行人・アーヴィング・クリストル。

*「ウィークリー・スタンダード誌」・1994年創刊し、2018年に廃刊。ウィリアム・クリストル(アーヴィングの息子)が編集長をつとめる。彼はハーバード大学の教授にもなっている。

*「ランド研究所」・米国陸軍が管轄するシンクタンク。1948年5月に設立。ネオコンが研究員として多数入り込んでいる。

*「ハドソン研究所」・1961年に非営利のシンクタンクとして設立。主として安全保障の研究を行なっている。

*「ヘリテージ財団」・1973年設立。ネオコンへの資金援助をしている旧統一教会とも深い関係にある。

*「外交問題評議会・CFR」・1921年に設立。1922年に「フォーリンア・アフェイアーズ」を創刊。米国の外交の指針を示しているといわれる。現在は、ネオコンの影響を濃厚に受けている。

*「全米民主主義基金・NED」・1982年にレーガン政権が設立。アメリカ国務省管轄の政治財団。CIAの活動が批判されたために諜報活動を代行するNGOとして設立された。NGOと称しても国家予算で運営しているので国家機関といって良い。CIAの代替諜報機関として米国の対外政治政策を推進している。

*「アメリカン・エンタ-プライズ公共政策研究所・AEI」・1943年設立。ネオコンと親和性のある親イスラエル

の保守系シンクタンク。

*「アメリカ新世紀プロジェクト・PNAC」・1997年にネオコンの中心人物アーヴィング・クリストルの息子ウィリアム・クリストルが中心となり、V・ヌーランドが共同創立者として設立したシンクタンク。

*「戦争研究所・ISW」・2007年にアフガニスタンとイラクの問題に取り組むことを目的に軍事請負会社が中

心となって外交と防衛政策のシンクタンクとして設立された。主としてロシアと中東問題を扱ってきたが、ウ

クライナ戦争が起こると、この戦いについての両軍の戦況図やその他の情報を繁く発信するようになり、多

くのメディアがこの組織の情報を引用している。ネオコンのV・ヌーランドの夫ロバート・ケーガンの兄弟の

妻キンバリー・ケーガンが所長を務めている。

理事会には、ウィリアム・クリストル、リーバーマン米元上院議員、イラク戦争とアフガニスタン戦争で総司令官を務めたペトレイアス大将、マッカーシーJrなどが名を連ねている。非営利団体として、防衛産業のジェネラル・ダイナミックス、やレイセオン、マイクロソフト、ゼネラル・モーターズなどからの寄付によって運営している。主として中近東のアフガニスタンやイラク戦争などの情報を提供してきたが、ウクライナ戦争では戦況図などをメディアに提供している。支援者が防衛産業であることから推察できるように戦争については硬派である。

*「新アメリカ安全保障センター・CNAS」・2007年にシンクタンクとして設立。主として軍需産業が出資して安全保障について発信している。V・ヌーランドが主宰している。

 

ネオコンの世界干渉の論理

ネオコンが1997年に設立した「アメリカ新世紀プロジェクト・PNAC」の基本綱領は以下のようなものであ

る。

1,アメリカは地球規模での責任を遂行するため、軍事力を増強する必要がある。

 

2,民主主義諸国との同盟を強化し、価値観を共有しない国とは対峙する。

3,国外での政治的、経済的自由と大義を強化する。

4,国際秩序を維持するためにも、アメリカのみが勝ちうる唯一の手法を選択する。

5,特殊作戦部隊―2001年のアフガニスタン侵攻作戦「不朽の自由作戦」において、先行潜入して地

元の軍閥と接触して買収し共同作戦を展開してタリバン政権を崩壊させた。

PNACは、2000年9月に「アメリカ防衛再建計画」を発表した。それには「アメリカの防衛体制は、新

しい真珠湾攻撃のような破滅的な出来事抜きには、その再建プロセスは長期間を要するものとなる

だろう」との分析が挿入されていた。このことが、9・11事件との関係が疑われることになる。

ネオコンは二元論的思考を行なう。「敵と味方」、「善と悪」に分類し、アメリカは神に選ばれた類を

見ない特殊な模範的な国であり、

常に善であると位置づける。したがって世界の同盟国は、米国の善意の行動を支援すべきであると

考える。手法は「分断と支配」である。

武力による干渉戦争の論理は、米国型の民主主義を模範と位置づけてその地に植え付けること

にある。ドイツと日本およびイタリアの民主化に成功したのだから、他の国もその可能性があるはずだ

というのが米国の論理である。しかし、ほとんどの国は米国の軍事力行使によって社会的混乱に陥っ

ている。

ネオコンは、米国が理想の実現に向けて行動を起こすのであるから、対象国の政治、経済、文化

などの事情を考慮する必要はないと捉える。そのために干渉を受けた国や地域は安定しないのであ

る。日本とドイツおよびイタリアが米国に従属するのは、もちろん第2次大戦で敗戦国となったからで

ある。朝鮮戦争があった韓国を除くと、米軍基地数はこの3ヵ国が未だにトップを占めている。

1位が日本で120ヵ所、2位がドイツで119ヵ所、韓国が3位で70ヵ所、イタリアが4位で44ヵ所存

在する。この基地の数は未だに戦勝国としての米国の占領軍がこの3ヵ国を支配していることを示し

ている。

 

イラン・イラク戦争から湾岸戦争へ

1979年にイラン革命が起こり、親米王朝のパーレビ王が追放された。それに伴って米・英はイラン油田の権益を失う。この権益を取り戻すために、米国はイラクの独裁者サダム・フセインを唆して翌1980年にイラク・イラン戦争を起こさせた。米国は表向きイラクを支援していたが、密かにイランにも武器を供給していた。これは単純な信義則違反ではない。イランへの武器売却益でニカラグアの反政府テロ組織「コントラ」を組織し、資金を提供してニカラグア政府打倒を企図したのである。この政治犯罪は「イラン・コントラ事件」として明るみに出た。

事件の中心人物の一人であるオリバー・ノース中佐は有罪になり収監されたがすぐに恩赦で釈放され

た。政権の犯罪なので彼一人に罪を着せることは公正とはいえなかったからである。

この事件の背景には劣勢だったイランに武器を供給することで梃子入れし、イラク・イラン戦争を長引

かせるという意図が隠されていた。戦争の最中にネオコンのディック・チェイニー国防長官は、「両国とも

戦い続けて潰れてくれるといい」との本音を漏らしている。これがイラク・イラン戦争の本質であり、分断と

支配の一例である。

このイ・イ戦争は米国が絡んでいるために周辺諸国は仲裁に入れずに8年間も続くこととなった。19

88年になってようやく国連安保理が仲介して停戦決議を受諾させた。両国間の戦争は終結したもの

の、イラクは戦費を消尽して多額の負債を抱えることになった。その打開策としてイラクはクウェートに1

990年8月に侵攻してしまう。クエートが借款の返済を繁く求めたからである。それにしても、イラクが軍

事力を行使したのは愚策である。

 

ネオコンによる第1次湾岸戦争

このイラクの愚かな行為に対する米国の対応は、サッチャー英首相が唆したのか、ネオコンの働きかけ

が効を奏したのかは判然としないが、米国は膨大な多国籍軍を編成して1991年1月に「湾岸戦争」を発

動し、サダム・フセインのイラク国軍を粉砕した。しかし、ブッシュ大統領Srはバグダッドまで侵攻してサダ

ム・フセインを排除することはしなかった。このことにネオコンのディック・チェイニーやポール・ウォルフォニ

ッツは不満を表明して「1990年代の国防政策―地球防衛政策」を発刊してブッシュSr政権の政策を批

判した。ネオコンの批判文書のなかには、戦術核兵器を使用する必要性も記述されていた。この対応を

見ると、ネオコンがサダム・フセインを排除するために「湾岸戦争」を仕掛けたと言っていい。

ブッシュSr大統領の「湾岸戦争」はネオコンとの駆け引きともいえる異様な戦争であったが、ブッシュSr

大統領そのものは必ずしも好戦的ではないように見える。

 

ユーゴスラヴィア内戦はネオコンの「選択した戦争」

それは、湾岸戦争直後の1991年6月に、旧ユーゴスラヴィア連邦のスロヴェニアとクロアチアが独立を

宣言したときの対応に現れた。ブッシュ大Sr統領は、両国が独立を宣言した翌日の6月26日に「必要な

のは話し合いによる解決だ」との第一声を発出した。

しかし、政権内にはディック・チェイニーなどのネオコンがいたため、次第に強硬な対応へと変化して

いく。そして、92年4月にはスロヴェニアとクロアチアおよびボスニア・ヘルツェゴヴィナの3ヵ国の独立を

先行して承認してしまう。EU諸国はこれに追随し、翌日に3ヵ国の独立を承認する。このことがユーゴスラ

ヴィア連邦の内戦を拡大させて激化する要因となった。

ネオコンは軍事力行使を二つに分類している。「選択した戦争」と「必要な戦争」である。したがって、二

重基準を避けることはできない。ユーゴ連邦解体戦争は「選択した戦争」であり、アフガニスタン戦争やイ

ラク戦争およびのちのウクライナ戦争は「必要な戦争」である。

 

クロアチア・ボスニア内戦そしてコソヴォ紛争の「選択した戦争」

1993年1月にブッシュ大統領を蹴落として大統領に就任したクリントン政権は、当初から軍事力行使を

優先させた政策を採用した。マデレーン・オルブライト米国務長官およびバルカン担当のリチャード・ホル

ブルックがネオコンだったということもあるが、ディック・チェイニーや論客のウィリアム・クリストルらネオコン

など外部からの強い働きかけがあったと考えられる。

クリントン米政権は1994年2月に「新戦略」を立案し、新ユーゴスラヴィア連邦を解体する方針を決定

する。そして、クロアチア共和国とボスニアのムスリム人勢力らの首脳陣をワシントンに呼び寄せて「ワシン

トン協定」に合意させる。それには、クロアチアとボスニア・ムスリム人勢力への軍事訓練を施すことが含ま

れていた。そして94年の1年間を訓練に充てると、95年には米軍事請負会社・MPRIなどの指導下に軍

事作戦を発動した。

この作戦にはNATO軍が絡んでおり、クロアチアやボスニアのセルビア人勢力に対して「デリバリット・

フォース作戦(周到な軍事作戦)」を8月30日に発動し、空爆を加えてボスニア・セルビア人勢力を屈服さ

せた。

 

コソヴォ紛争への欺瞞的な関与

コソヴォ紛争へのネオコンがらみの介入も慎重に進められた。米国が主導するNATO軍はクロアチアと

ボスニアのセルビア人勢力を1995年に「周到な軍事作戦」を発動して屈服させると、翌96年にミロシェヴ

ィチ・セルビア大統領を説得してコソヴォに米CIAの拠点となる「情報・文化センター」の設置を認めさせ

た。ミロシェヴィチがなぜ簡単にCIAの拠点を設置させたのか理解に苦しむが、直後にコンブルム国務次

官補は「コソヴォに関与し続ける一例である」と露骨に述べた。

米ネオコン政権は「情報・文化センター」を通してセルビア共和国からコソヴォの分離独立を図る若者

の過激派グループ「コソヴォ解放軍・KLA」と接触して養成した。当時のコソヴォ独立を図る政治運動の

主流はルゴヴァが率いる「コソヴォ民主連盟」である。にもかかわらず、米国は一時期テロ組織に指定した

コソヴォ解放軍を「自由の戦士」と称えて支援することにしたのだ。コソヴォ民主連盟の老練なルゴヴァよ

り、若者の過激派集団であるコソヴォ解放軍の方が扱いやすいと分析したのであろう。ルゴヴァのコソヴォ

民主連盟は以後ほとんど無視されことになる。

コソヴォ解放軍は97年に隣国アルバニアが政治的混乱に陥ると、そこから武器を大量に入手して直ちにコソヴォで武力闘争を開始した。コソヴォ紛争はコソヴォ解放軍が仕掛けた武力紛争であり、米国はコソヴォに「情報・文化センター」を設置させていたことからすれば、米CIAはコソヴォの状況が「低強度紛争」にすぎないことを知悉していたはずである。ところが、米政府はコソヴォのアルバニア系住民がセルビア治安部隊の迫害を受け、10万人から20万人の命が危険にさらされているとのブラック・プロパガンダを発して国際社会を幻惑した。

そして、ネオコンのオルブライト米国務長官は一刻の猶予もならないと言い募り、フランスのランブイエで

行なわれた和平交渉を主導してユーゴ連邦側に難題を押しつけ、故意に交渉を破綻させる。そして、NA

TOは安保理決議を回避し、1999年3月12日にヴィシェグラードと称されるポーランドとチェコおよびハン

ガリーをNATOに加盟させると、3月24日に人道的と称する「同盟国の軍事作戦」なる大規模な「ユーゴ・

コソヴォ空爆」をユーゴ連邦に対して発動した。ユーゴ連邦の隣国ハンガリーをNATOに加盟させたの

は、ハンガリーの空・陸域を利用するためであった。78日間に及んだNATOの空爆は無差別であり、メデ

ィア、病院、鉄道、発電所、道路、橋、工場、官庁、大統領官邸、住宅、さらに駐ベオグラード中国大使館

へもミサイルを3発撃ち込んだ。この差別爆空爆は空戦規則違反であり国際法違反である。オルブライト

米国務長官は安保理決議を回避することについて「米国は武力行使をすることがある。それは米国だか

らである。他のいかなる国よりも高見に立って遙か遠い将来まで見通している」と世界の支配者のごとき傲

岸な言葉を発した。

 

人道的介入とはセルビア共和国を弱体化させること

人道的の名を冠したNATOの軍事行動の思惑について、英国のNATO関係者は次のように述べた。

「われわれはセルビアが再び軍事大国になるのを阻止しなければならない。我々は意図的に非軍事の道

路、橋、工場を空爆した。セルビアはNATO空爆後の復興の際、民需の修復の必要が大きければ大きい

ほど、軍事部門の復興は困難になる。それが狙いだ」と、ユーゴ・コソヴォ空爆の目的を語った。これは世

界の支配者の論理であり、西欧の民主主義の思想的到達度がこの程度のものであることを示している。N

ATOがネオコンの分断と支配の思想を適用したのが、ユーゴ連邦解体戦争の本質なのである。

ユーゴスラヴィア連邦を解体させたいとの意図の背景には、「非同盟諸国会議」が拡大し、いわゆる第

三世界が力を持つことを阻止する功利性が隠されていた可能性も否定できない。

当時はミロシェヴィチ・セルビア大統領の地域支配の意図が内戦を激化させたという言説が世界に流

布され、西側のメィアや知識人と称される人たちにも広く受容された。疑問を呈する人は罵倒の対象とな

った。2022年にウクライナ戦争が発生した時点では、NATOがユーゴ連邦を解体するために空爆をした

ことは西側のほとんどの国では忘れさられているように見える。自らに都合の悪いことはなかったことにす

るのが西側の正義の理念なのであろう。

もちろんEUの関係者がすべて一色だったわけではない。フランスのベドリヌ外相はネオコンのオルブ

ライト米国務長官を評し「脅し文句を並べ、自国の力と長所を露骨に自慢しながら、他国の政府を説教す

ることを外交の得意技とする初めての国務長官だ」と述べて批判した。

「収容所群島」を著してソ連を批判した作家のソルジェニツィンは国外に追放されていたが、ゴルバチ

ョフ政権に許されて1994年に亡命先の米国からからロシアに帰国した。そしてNATOの一連のユーゴ・

セルビアへの空爆を見るに及び、「NATOのセルビア空爆は残酷なものであった。ロシアはショックを受

けた。西側への幻想は消えた」と、ロシアがNATOのユーゴ連邦空爆をどのように受け取ったかを端的に

語った。

当時のロシアのエリツィン政権はずぶずぶの親米政治・経済改革を進めていたが、NATOの「ユーゴ・

コソヴォ空爆」をみてNATOが仮想敵国になると捉え、空爆続行中の5月に早くも対NATOの「新戦略概

念」および「軍事ドクトリン」の改訂に取りかかった。これを主導したのが安全保障会議の書記となっていた

ウラディミール・プーチンであった。プーチンは2000年に露大統領に就任すると、2001年にはヨーロッパ

側と極東で核戦争を想定した軍事演習を行なうことになる。

 

ユーゴ連邦への予防的先制攻撃を選択したNATO

のちにクリントン米大統領はボスニア内戦やコソヴォ紛争について「米国に直接の脅威は存在しなかったが、これらの国々の国民と周辺諸国に対する危害を未然に防止するために軍事力を行使した」と述べた。ユーゴ連邦が周辺国に武力行使をした事実はなく、その可能性もなかった。しかし、米国は覇権拡大を企図して表向き人道上看過できないとの理由をつけてネオコン流の選択的な予防的先制攻撃理論を適用してNATOによるユーゴ連邦への空爆を実行したのである。それ故に、ネオコンの主流はユーゴスラヴィア連邦内戦問題をNATOの軍事力行使によって決着したことを評価している。

 

ミロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領は暗殺されたのか

ネオコンそのものではないが、英国の諜報機関・MI6の元要員だったリチャード・トムリンソンはMI6がミ

ロシェヴィチ・ユーゴ連邦大統領の暗殺計画を立てていた、とのちに述懐した。その計画に添ったのかどう

かは明らかではないが、ミロシェヴィチ大統領は旧ユーゴ国際戦犯法廷・ICTYで裁判が続く中、持病の

心臓病を仮病扱いされて治療を受けられないまま拘置所で獄死させられた。一説には、ICTYのスタッフ

が米国人によって占められていたことから不適切な薬剤が処方されたのではないかともいわれる。NATO

諸国はユーゴ連邦解体戦争に軍事介入するにあたり内戦の過程で生じた諸悪の責をすべて「セルビア・

ミロシェヴィチ悪」に帰してきたが、それを考証することの困難さを解消するための策謀といえよう。国際社

会には法の支配ではない闇がある。

 

NATOの空爆を止められなかったチェコ大統領のお詫び

のちにセルビアのヴチッチ大統領がチェコを訪問し、ゼマン・チェコ大統領と会談した。その際、ゼマン

大統領は「1999年のNATOのコソヴォ空爆は誤りであり、それを止められなかった。そのことについて私

はずっと苦しんできた。それは犯罪より悪い。私を許してくれるようセルビアの人々にお願いしたい」と謝罪

を表明した。1999年当時のチェコの大統領はバーツラフ・ハベルで、彼は1968年の「プラハの春」が武

力で鎮圧された体験をしていながら、NATOの軍事行動を熱心に支持した。ゼマンは当時首相を務めて

いたのだが、それを止められなかった。そのお詫びとしての発言である。ゼマン・チェコ大統領の発言でセ

ルビアとチェコは和解した。

 

中・米対立の淵源

1999年のユーゴ・コソヴォ空爆の際、NATOは中国の駐ベオグラード大使館にもミサイルを3発撃ち

込んで死傷者を出した。NATO(米)は中国がユーゴ連邦に通信網の便宜を図っているとの疑惑を抱い

ており、それに対する懲罰的な措置としての空爆をしたのだった。米国は誤爆だと釈明したが、もちろん

誤爆ではない。のちに米政府の高官はNATOのユーゴ・コソヴォ空爆について、「誤爆は一切していな

い」と述べている。この発言から導かれるのは中国大使館への爆撃は意図的軍事行動だったということ

だ。

中国にとってNATOは遠い存在だったが、このミサイル攻撃を受けたことでNATOが仮想敵国になりう

ると分析した。そこで、中国は専守防衛に備えた陸軍を削減し、現代戦に適合した軍備編制を図ることに

なる。ウクライナから空母を購入したのもその一環であり、南沙諸島に軍事基地を建設したのも密接に関

連している。

 

中国人民はNATOの空爆を永遠に忘れない

23年後の2022年5月6日、中国の外務省趙立堅副報道局長は記者会見において「中国人民は1999年5月7日を永遠に忘れない」とNATO軍の駐ベオグラード中国大使館へのミサイル攻撃を批判した。さらに、「NATOが東方拡大を続

け、ロシアとウクライナの間に紛争の種をまいた」と付け加えた。すなわち、ユーゴ・コソヴォ空爆が米・中

対立の淵源となったのみか、ロシアのウクライナ侵攻を招いたと中国が認識していることを披露したのであ

る。

米国はこの自らが作り出した原因を棚上げして中国がNATOに対抗する軍備増強を図っていることは

国際社会の秩序を乱すと喧伝し、同盟国と称する国々に軍備増強を呼びかけて「AUKUS」や「クワッド」

などを設立させた。さらに、NATOの東京連絡事務所を開設まで検討し始めている。このNATOの東京

事務所開設にはフランスから異議が出されたため頓挫しているが、日本政府はNATOとの結びつきを強

める姿勢を崩していない。これらの軍事同盟の設立はNATO加盟国をアジアまで拡大することを予定し

た中国包囲網の一環である。これが世界の平和にとって望ましい姿といえるのか。

 

ネオコンの日本への干渉

ネオコンのリチャード・アーミテージは知日派として知られ、しばしば訪日してジャパン・ハンドラーとして

工作に従事し、国務副長官にまで上り詰めた。国務省のナンバー2である。彼は日本に対し、米戦略国

際問題研究所・CSISの政策の一環として2000年に「第1次アーミテージ・レポート」を発表して有事法制

の整備を求め、2004年には「第2次アーミテージ・レポート」で憲法9条が日米同盟の障害となっていると

記述し、2012年の「第3次アーミテージ・レポート」では日米同盟の役割強化を求め、2018年の「第4次

アーミテージ・ナイ・レポート」では日本の軍事費をGDPの2%超とすることを要求、2020年の「第5次ア

ーミテージ・ナイ・レポート」では中国の軍備増強について日米同盟にとって最大の安全保障上の挑戦と

して日米が脅威を共有する重要性を指摘し、2024年の「第6次アーミテージ・ナイ・レポート」では縦割り

の日本政府機関に対して一元的な情報分析機関の設置を促した。このようにネオコンの影響を受けてい

る米政府は日本の防衛政策の指針を示し、日本政府はそれに沿った政策を推進するという従属姿勢を

採っている。日本にも米中央情報局・の支部が置かれエージェントを採用して工作している。

さらに、アーミテージは日本の政治の中枢にたびたび手を突っ込んで引っかき回している。自主派の

小沢一郎が首相になる可能性が出てくると、「陸山会」事件をでっち上げてそれを阻んだ。日本の検察は

米国と近しいので、米国の意を体して罪状を作り出すことがしばしば起こる。日本の首相が短期で入れ替

わるのにはネオコンなどの米国の意向が働いているからである。逆に、長期政権は米国に支えられてきた

ともいえる。

日本の岸田政権が防衛費を大幅に増額させたのも、日本防衛の必要性からではなく米政府の要求に

応じたものである。バイデン米大統領は自らの功績として日本の43兆円の軍事費増加は私がそうさせた

のだと語った。のちにこれを否定したもののこのような重大事項を思いつきで語ることはあり得ないので、

岸田首相の独自の政策ではなく米国側が押しつけたというのが真実であろう。岸田首相は2023年の施

政方針演説で「外交には、裏付けとなる防衛力が必要です」と述べた。外交より防衛力を優先するこの発

言はネオコンの思想そのものである。

遡ると、故キッシンジャー元国務長官はネオコンではないが、民主主義者とはいえない策士である。彼

は密かに中国を訪れて1972年2月のニクソン大統領訪中へと導いた。

この密かな米中外交は日本を驚かした。しかし、田中角栄首相は素早く反応し、同年9月に訪中して日

中国交正常化を果たした。この先走った田中角栄の外交にキッシンジャーは激怒した。米中外交にはい

くつかの狙いが秘められていたからである。中・ソ対立を激化させること、ベトナム戦争を終結させること、

そして中国の政治体制を変革させることなどにあった。日中国交正常化はこの米国の思惑の障害になる

と受け取ったからだ。そこで田中角栄を排除する策を講じ、ロッキード事件に陥れて退陣させた。のちに

米政府のある高官は、あれは間違いだったと漏らした。

さらにキッシンジャーは、チリで1973年の大統領選で選出されたアジェンデが社会主義的な政策を公

表したことが米国の内庭(植民地)と捉えている中南米の政治状況が反米に傾くことを危惧した。そしてC

IAを使ってアジェンデ政権打倒に動き、ピノチェト将軍を唆して資金を提供して73年9月11日にクーデ

ターを起こさせた。これは、もう一つの9・11事件である。その後のチリでは軍部による殺戮の嵐が吹き荒

れることになった。反軍部活動者と見られた民衆をヘリコプターから突き落とすという想像を絶する殺戮

法を多用した。キッシンジャーは民主的な選挙で選出された代表といえども、従米でなければ抹殺するこ

とをも躊躇わない政治家だったのである。キッシンジャーは2年後の75年にチリを訪れ、にこやかな笑み

を浮かべてピノチェトと握手した。

 

ブッシュJr大統領とネオコンの集結

ネオコンにはユダヤ系が多いが、プロテスタント原理主義(福音)派およびイスラエルが結びつくと、軍事力による解決を優先する予防的先制攻撃論が一層支配的となる。2001年1月に大統領に就任したブッシュJr政権がその典型である。彼は最も多数のネオコンを閣僚として取り込んだ。ディック・チェィニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ポール・ウォルフォヴィッツ国防副長官、リチャード・パール国防政策諮問委員会委員長、大統領補佐官から国務長官にもなったコンドリーザ・ライスなど国防関連にネオコンが居並ぶ。

C・ライスはブッシュJr政権に入る前に、「サダム・フセインは大量破壊兵器の開発に躍起となっており、

彼が政権にいるかぎり何も変わらない。したがって我々は彼を政権の座から排除するために、反体制派

への援助も含め、ありとあらゆる手段を用いるべきだ」との論考をネオコンの機関誌「ナショナル・インタレ

スト」に寄稿した。そして、彼らは9・11事件が起こる前の01年1月にイラクのサダム・フセインを排除するこ

とを話し合っていた。

 

9・11事件とアフガニスタン戦争

そして半年余りのちに9・11事件が起こる。ネオコンのアシュクロフト司法長官は準備していた「パトリオ

ット新法」を議会に提出する。議員たちはその内容を理解することなくあたふたとその法律を成立させた。

ブッシュJr政権は直ちに9・11事件の犯行者をアルカイダと決めつけ、アフガニスタンのタリバン政権が彼

らを匿っていると難癖をつけて1ヵ月を経ない10月7日に「不朽の自由作戦」なる意味不明の軍事作戦を

発動して侵攻し、タリバン政権を潰した。米国は9・11事件と直接関係のないタリバン政権を潰すだけで

はまずいと考えたのか、国連に平和維持部隊・ISAFの設置決議を採択させ、NATO加盟国すべてと候

補国など43ヵ国にまで拡大してアフガニスタンに派遣させた。

ISAFは安保理決議による平和維持部隊とはいっても国連軍ではない。総司令官はNATO軍としての

米軍だからである。この曖昧な体勢が派遣部隊の混乱の原因となり、やがてISAFはアフガニスタンの平

和維持が目的なのかタリバンを含む武装勢力と戦うのかが明確にならず、住民支援活動と武力攻撃が脈

絡なく交互に行なわれるということになる。このNATO軍の破壊行為がアフガニスタン民衆の怒りを買うこ

とになり、タリバンが復権する。

 

「必要な戦争」としてのイラク戦争

2002年に入ると、ネオコン集団のD・チェイニーやP・ウォルフォニッツ、D・ラムズフェルドらは、9・11事

件に関係がないイラクのサダム・フセインの排除を声高に主張し始めた。そして関係機関に対し、「サダムは

危険分子である。彼は世界に害悪をもたらす。だから排除しなければならない」と吹き込んで、イラクが大量

破壊兵器を所有している証拠をつかむよう働きかけ続けたのである。これに対して世界の大多数、中でも国

連常任理事国の仏・露とドイツがイラクへの軍事行動への反対を表明した。

国連の大量破壊兵器査察団長のスコット・リッターは著書などでイラクに大量破壊兵器は存在しないと公

言する。米CIAの内部でも大量破壊兵器の存在を否定する派と肯定する派に分かれていた。そこで、D・チ

ェイニー副大統領はCIA本部をしばしば訪れて大量破壊兵器の存在を把握するように促した。

テネットCIA長官はブッシュJr政権の意図を忖度し、部下の提言を退けてイラクが大量破壊兵器を所有す

ることは、「スラムダンクほど確実だ」と俗な比喩を述べてイラク侵攻の後押しをした。

 

予防的先制攻撃の対象となったサダム・フセイン

このような世界的趨勢にネオコンのマイケル・フロノイ米国戦略国際問題研究センターの上級顧問は

「我々にとっては、今までのように主としてアメリカの同盟国と協力して海外の国益を保護するという方法で米

国の国家安全保障を考えるという贅沢はもう通用しなくなった。我々は米本国の防衛に今より遙かに真剣な

注意を払うことを必要とする」、と米国による単独行動主義を主張した。

ネオコンの論客ウィリアム・クリストルも米国は二つの目標を同時に追求すべきだと主張。「第一には、アメ

リカの国益と原則に貢献する世界秩序を推進すること。第二には、このような秩序の達成に対する眼前の障

害物となる脅威に対する自衛行為を行なうこと」である、とやはり単独行動を匂わせる論陣を張った。さらにク

リストルは、「イラクのサダム・フセインは、今は核兵器を所有はしていない。しかし、それを手に入れれば、米

国を恐喝したり行動を抑止したりするようになる。狂気・異常性格者のサダムがそのような状況を手に入れる

まで米国は待つべきなのか。キノコ雲を見てからでは遅い。被侵略国は侵略国の攻撃を待つまでもなく、そ

れ以前に先制攻撃をするのは正当である」とまで言及して大量破壊兵器の製造と保有の可能性を喧伝し、

予防的先制攻撃の重要性を強調した。

ユーゴスラヴィア内戦では、ミロシェヴィチの狂気を喧伝したのと同じ手法である。また、プーチン露大統

領のウクライナ侵攻は蛮行であるが、その愚行に対してプーチンの精神状態を流布したのと同断である。

 

偽情報を喧伝してイラクに軍事侵攻

しかし、9・11事件と関係のないイラク戦争を始めるには、予防的先制攻撃論を信奉するネオコンを主とす

る政権としても、証拠もなくイラクに攻め込むことはためらわれる。そのため、米政府はイラクがニジェールの

ウランを購入したとか、遠心分離器のアルミ・パイプを購入したとか、アルカイダと密接な関係があるとかの情

報を流したもののいずれも否定され、イラクが大量破壊兵器を所有しているという確証を得ることはできなか

った。そこで、ドイツからもたらされた「カーブボール」なる怪しげな男の情報を取り入れる。

そして、2002年2月の安保理でパウエル国務長官はイラクが移動式大量破壊兵器製造施設を持つとの

あやふやな理由を強調し、世界を唖然とさせた。そして委細かまわず米国は英・豪などと有志軍を編成し、

安保理決議を回避して2003年3月24日に武力行使に踏み切ってしまう。その上で、サダム・フセインを捕ら

え、形式的な裁判を行なわせて処刑させた。米国は目的を達成したものの、イラクで大量破壊兵器を見つけ

出すことはできなかった。

9・11事件後に米国はアフガニスタンとイラクの二つの国を破壊したが、米国に経済制裁を科す国はなか

った。しかし、「高級情報評論・EIR(週刊)」などに集う人々はネオコンを批判し続けている。この「エグゼクテ

ィヴ・インテリジェンス・レビュー」を創刊したリンドン・ラルーシュは、民主党の大統領予備選の候補者にも名

乗り出た経歴を持つが、ネオコンを「獣人ネオコン」という蔑称をつけて厳しく批判している。

 

ネオコンの新世界秩序

国際社会の批判など委細かまわずネオコンは21世紀を「アメリカの新世紀」と位置づけ、それを実現する

ためには軍事力行使も辞すべきではないと主張している。現在の世界秩序はアメリカの諸価値が真に普遍

的なものであるとの認識に基づいて世界に受容されている、という事実に支えられているとの考え方をしてい

る。ネオコンは軍事力が不十分だと政治的発言力が弱まると捉える。米軍の軍事費が増加の一途を辿って

いるのはこのネオコンの思想を取り入れているからである。

 

NATOは米国の世界覇権の機関

冷戦構造が崩壊し、91年にワルシャワ条約機構が消滅したことからすれば、NATOも解消するのが当然

の措置と考えられるが、NATOは解体しなかった。米国による世界覇権、すなわち分断と支配に齟齬が生

じるからである。

東西ドイツの再統一が1990年に図られた際、ベーカー米国務長官はゴルバチョフ・ソ連書記長に対して

NATOを1インチたりとも東に進めないと口頭で約束した。しかし、それはソ連の消滅とともに反故にされた。

そして早くも93年にはウクライナにカリフォルニア州兵を派遣して以後の道筋をつけ、そしてロシア包囲網の

一環としてのウクライナ軍兵の訓練を始めた。

 

ブッシュJr大統領とNATOの東方拡大

ブッシュJrは大統領に就任した直後の2001年にワルシャワ大学において「すべての欧州の新しい民主

主義国、バルト海、黒海までのすべての国は欧州の古い民主主義と同じように欧州の国の機構に参加する

チャンスを有するべきだ」とNATOによるロシア包囲網を示唆した。

そして、2004年にはバルト3国に加え、スロヴァキア、ブルガリア、ルーマニア、旧ユーゴ連邦のスロヴェ

ニアの7ヵ国を加盟させた。このような動きに対してプーチン露大統領は、2007年にNATOの東方拡大が

ロシアへの脅威であると明確に異議を申し立てた。

しかし、NATO諸国はこれを聞き流した。そして、2008年に開かれたNATO首脳会議において、ブッシ

ュJr大統領はウクライナとジョージア(グルジア)を加盟させるよう提案した。そのときは時期尚早として合意に

至らなかったが、2009年にはアルバニアと旧ユーゴ連邦のクロアチアが加盟。2017年には旧ユーゴ連邦

のモンテネグロが加盟。2020年には旧ユーゴ連邦の北マケドニアが加盟するというように着々とNATOの

東方拡大を推進してロシア包囲網を形成していった。

 

米国の政策を左右するネオコン

大地舜は著書「欧米の敗北」で米国の外交政策に関与する主なネオコンの名を列挙している。ディック・

チェイニー(元副大統領)、フランシス・フクヤマ(政治学者「歴史の終わり」の著者)、ドナルド・ラムズフェルド

(元国防長官)、リチャード・アーミテージ(元国務副長官)、ジョン・ボルトン(元大統領補佐官)、ロバート・ケ

ーガン(ネオコンの論客)、ヴィクトリア・ヌーランド(現国務副長官代行)、キンバリー・ケーガン(戦争研究所・

ISW創立者)、マイク・ポンペイオ(元国務長官)、アントニー・ブリンケン(現国務長官)、ヒラリー・クリントン(元

国務長官)などである。これらの顔ぶれを見ればロシア途中国および北朝鮮と平和条約を結ぶことは非現実

的だと言えよう。

 

トランプ政権もネオコンが関与

2017年に成立したトランプ政権もネオコンが主要な閣僚を占めた。マイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、ジェームス・マティス国防長官、ジョン・ボルトン安全保障担当大統領補佐官、ニッキー・ヘイリー国連大使などである。トランプ大統領は北朝鮮との和平交渉を行なったが、どこまで本気であったかどうかは分からないものの38度線にまで訪れたところを見ればそれなりの見込みを立てていたのであろう。しかし、帯同したネオコン強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官が核兵器開発などを巡る条件をつり上げて和平交渉を破綻させたといわれる。あるいは、紛争の種を残しておきたいとの軍産複合体

の意図が隠されていた可能性もある。もし朝鮮半島で和平が実現すればアジアに駐留している海兵隊が

不必要になり、ひいては海兵隊そのものが削減の対象となりかねないからだ。

 

ウクライナのマイダン革命を誘導したネオコン

ウクライナの「マイダン革命」にもネオコンが深く関わっている。ロシア嫌いのネオコンであるヴィクトリア・ヌ

ーランド国務次官補は2013年に、「米国ウクライナ人協会」において「ウクライナの親NATO派勢力に対し

て50億ドルを超える支援を行なってきた」と表明した。この発言からしても、米国はかなり早い段階からウクラ

イナをNATOに加盟させるよう工作していたことが分かる。

 

外交より軍事力を優先するネオコン

翌2014年2月にウクライナのマイダン革命が起こる。この革命を策動したのは、ネオコンのV・ヌーランド

米国務次官補やオバマ政権の副大統領だったジョー・バイデンらである。バイデン副大統領はヤヌコヴィ

チ・ウクライナ大統領に繁く電話をかけ「ウクライナにお前の居場所はない。早くモスクワに帰れ」と脅し

た。ヤヌコヴィチ大統領は脅しに屈して亡命した。ディック・チェイニー元副大統領もウクライナのNATO

加盟推進に加担している。

ヌーランドがマイダン革命を誘導した事実はヤヌコヴィチの後継者について、パイアット駐ウクライナ米

大使との電話のやりとりが曝露されたことで広く知られることになった。さらに、ヌーランドはマイダンに集ま

った群衆の中に現れ、抗議活動の参加者に何物かを配布して回っていた。これもTVニュースで流された

ことから米国がマイダン革命を支援していることが世界に知られることになった。もちろんネオコンのヌーラ

ンド一派だけで革命が起こせるわけではない。米CIAやその下請け機関である全米民主主義基金・NE

Dおよび軍事請負会社が濃厚に関与している。そのため、マイダン革命は「ネオコン革命」あるいは「CIA

革命」とも称される。

ネオコンのV・ヌーランドはマイダン革命を誘導した功績が認められたのであろう、国務次官から国務省

のナンバー2に当たる国務副長官代行にまで昇進することになる。しかし代行で終わった。V・ヌーランドの

夫はネオコンの論客であるロバート・ケーガンである。彼は「ネオコンの論理・アメリカの新保守主義の世界

戦略」なる著書を出し「軍事力を増強することで政治力が増すのだ」、と露骨な軍事力優先思想を展開して

いる。ケーガンの世界観は、軍事力を効果的に行使することで米国の世界覇権と権益の確保が実現できる

とするものである。

ジョン・マケイン共和党上院議員もネオコンといわれるが、このマイダン革命の前後に数回ウクライナを訪

問している。

 

ロシアはNATOの拡大に対抗してクリミアを併合

マイダン革命に米国が関与していることを知らされたロシアは、クリミア半島の住民にロシア語話者が多い

ことを利用して住民投票を強行し、2014年3月にはロシアに併合した。性急だったのは、ウクライナがNAT

Oに加盟するとクリミア半島のセバストポリ特別市にロシアが租借している軍港から黒海艦隊が排除されると

判断したからだ。

これに対し、主としてNATO加盟国や米国と同盟関係にある国々は「国際法違反である」と非難し、ロシ

アに経済制裁を科した。さらにG8からも追放する。プーチン露大統領はこの西側の動きに対し「コソヴォの

例がある」と述べてNATOがユーゴ・コソヴォ空爆によってコソヴォ独立を導いたことを例証してクリミア併合

の正当性を主張した。NATO諸国は「コソヴォは例外である」との米国の行為は常に善であるとの特殊例外

論を展開してかわした。

 

NATO諸国はウクライナに武器を提供し訓練を施す

翌2015年前後に米国の第6陸軍訓練コマンドが主導するNATO諸国はウクライナ正規軍や民兵組織に

武器を提供するとともに、訓練を強化した。この訓練は秘密に行なわれたわけではなく、テレビの映像でも流

されたのでNATOはロシアにもその実態を知らせるつもりだったと見られる。

この武器供与と訓練は継続的に実施され、2020年には19ヵ国から10万人を超える義勇兵が参集してい

た。義勇兵には二種類の人たちが参加している。一つは民主主義的理念で参加した人々、もう一つはフ

ァシスト的(ネオナチ)理念を抱いている人たちである。ロバート・ケネディの息子も義勇兵として参加して

いる。これらの者たちを訓練するために、NATO諸国がウクライナに供与した援助はこの段階で既に70

億ドル超に達するという。

NATOは2016年4月にエストニア、リトアニア、ラトビアおよびポーランドに4個大隊を巡回派遣するこ

とを決定。翌2017年には米国は2個戦車旅団をポーランドに駐留させた。2018年にはウクライナに米国

防安全保障局・DSCAが対戦車ミサイル「ジャベリン」210基の売却を決定する。NATOは着々と戦時体

制を構築した。

 

ロシアとの戦争を予定していたウクライナ

さらに、2019年4月にNATOはウクライナを引き込んで軍事演習を実施した。その直前にゼレンスキー

大統領の顧問のアレストヴィチはテレビのインタビューで「ウクライナがNATOに加盟するためにはロシアと

の戦争が必要である。ウクライナはロシアの敗北が必要なのだ。この敗北はロシアの崩壊に繋がるものでなく

てはならない」と露骨にウクライナ戦争について語った。ウクライナが単独でロシアを敗北に追い込むことは

不可能なので、当然NATOの軍事力を期待してのことだと推測すると、ウクライナはかなり早い段階にNAT

Oとともにロシアとの戦争を予定していたと推察できる。

 

バイデン米大統領の好戦性

バイデンはネオコンではないが好戦的である。ベトナム戦争に反対する学生たちを見て「あの馬鹿ども」と

罵った過去を持つ。1999年のNATOによるユーゴ連邦への空爆に積極的であり、2001年のアフガニスタ

ン戦争および2003年のイラク戦争にも賛成した。さらにマイダン革命を誘導してウクライナをNATOに加盟

させるよう画策し、ポロシェンコ・ウクライナ大統領に、憲法を改定してEU加盟とNATO加盟を規定するよう

促した。ポロシェンコ大統領はこれに応じて2019年に憲法を改定し、EUとNATO加盟を義務化する条項

を付加した。

ゼレンスキーがウクライナ大統領になると、2021年に米国を訪問してNATO加盟の道筋をつけるよう要

請し、同年9月にはNATO軍とともに軍事演習を行なった。ロシアはこれに対抗する形でウクライナ国境地帯に10数万の兵員を集結させた。

緊迫する中、2021年12月に米・ロ間で話し合いが持たれた。この会談でロシアはウクライナをNATOに

加盟させないよう強く求めるが、米政府はこれを突っぱねた上、ウクライナ国境地帯に終結させたロシア軍の

撤収を求めたために話し合いは決裂した。マイダン革命を誘導したヌーランド国務次官補は開戦直前の22

年1月に「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、ノルド・ストリーム2は前進しない」とあたかもパイプラインが

米・ロ間の事業であるかのような発言をしている。この発言は米国の覇権者意識と米国で有り余ったシェー

ル・ガスとシェール・オイルの売却を含意している。すなわち、ウクライナ戦争において従属国家ドイツの利

益など考慮するに値しないということであり、ロシアとNATOの代理戦争の性格を内包していることを明示し

ているのである。ドイツは自らが進めてきた東方外交が米国の憤りの元であったことを理解して「ノルド・ストリ

ーム2」の稼働を諦めることにした。

 

ウクライナの挑発攻撃

スイスの諜報関係者ジャック・ボーによると、ウクライナは2022年2月16日にアゾフ連隊や外人部隊、義

勇軍などでドンバス地方の「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」へ激しい攻撃を始めた。挑発

である。これらの攻撃に加わったウクライナの兵員がネオナチであるとしてプーチンが批判することになる。

そして2月21日にプーチン露大統領は抑制してきたドンバスの両国を独立国として認める大統領令に署名

した。ジャック・ボーはOSCE監視団の報告として、ロシアはこのときまでに組織的な軍の派遣はしておら

ず、ただ56名のロシア人が数えられのみであると発表している。

 

ロシアは国際法を無視した「特別軍事作戦」を発動

22年2月24日、ロシアは米国のみに黙認されている軍事行動を「特別軍事作戦」なる特殊な名称をつけ

てウクライナに侵攻した。ベラルーシからキーウ方面の北方軍、ドンバス地方の東方軍、クリミア半島からヘ

ルソン州に至る南方軍の3方向からウクライナに侵攻したのである。

ロシアにとってNATOの東方拡大が脅威であり恐怖であったとしてもこのロシアの行為は国際法違反で

あり、蛮行である。その上、ロシアはウクライナの軍事態勢を甘く見ていたようだ。ウクライナが「マイダン革

命」後の2015年から米国を主としたNATO諸国の軍事訓練を受けていたことを知りながらその効果を把握

していなかったようだ。

ウクライナ側はロシアの特別軍事作戦に対する迎撃態勢を十分に整えていた。北方軍のルートではダム

を決壊させ橋も崩落させてロシア軍の行動を制約した。そして、正規軍に加えて義勇軍や外人部隊の駐屯

地を移動し、武器や弾薬の収蔵所を変更するなどロシアのミサイルの標的を無効化する方策をたてていた。

そのため、ロシアの第一撃はほとんど効果を上げられなかった。ロシア軍は侵攻を阻まれたばかりか対戦車

ミサイル「ジャベリン」や対ヘリミサイル「スティンガー」などで迎撃され、北方軍は大損害を受けて敗退した。

このウクライナ軍の巧みな作戦要領は訓練を施したNATO諸国の指導の下に実行されたと見るべきだろう。

バイデン米大統領はウクライナ戦争が始まると好戦的な姿勢を示しているポーランドを訪問し「我々はあら

ためて自由のための大戦争に突入した。我々はこれからの長期戦に向けて心構えを固めなければならな

い」と演説した。

 

ロシアの不分明な作戦

それにしても、ロシアの戦略には不分明なところがある。10数万の兵員で侵攻したが、その程度の兵員で一国を支配することが不可能なことは常識の範疇であるからだ。ではこの少数の兵員で行なった「特別軍事作戦」で何を得ようとしたのか。プーチンがウクライナのNATOへの加盟を阻止しようとしたこと、およびネオナチのロシア語話者への迫害を排除することを主張していることからすれば、この二つが目的であることは容易に推察できる。しかし、いかがわしさが漂う住民投票を強行してまでザポリージャ州とヘルソン州の併合を図ったのはなぜか。クリミア半島のインフラ機能を維持するためとの推察は可能だが、この侵攻が明確に侵略行為となることを示すことになったのはロシアにとって負の評価を積み重ねることになろう。

 

ウクライナ戦争はNATOとロシアの代理戦争

フランスの歴史学者エマニュエル・トッドは、フランス国内の論壇の雰囲気を見てフランスでの発言を諦め

第一声を日本で発した。この第一声でトッドは「ウクライナ戦争は米・英がウクライナを唆したもの」といち早く

指摘した。

ロシアが体制転換で混乱している時に関与した米国の経済学者のジェフリー・サックスは、「ウクライナ戦

争は2022年に始まったのではなく2014年2月に始まったのだ。バイデンは上院議員としてNATOの東方

拡大を図ってきた。マイダン革命も背後で操っていた」と鋭く指摘している。

シカゴ大学のジョン・ミアシャイマーは「ウクライナ戦争を引き起こした責任は西側諸国、とりわけアメリカに

ある」と主張して論争を巻き起こした。1999年の「ユーゴ・コソヴォ空爆」の際にイタリア空軍の参謀だったレオナルド・トゥリカリコは、「NATOは東方への拡大にとりつかれ、反ロシア・ヒステリーの状態に陥った。その結果が、このウクライナ戦争である」と公共テレビで語った。

 

メルケル独前首相はウクライナ戦争の意味を知悉していた

メルケル・ドイツ前首相は、2022年12月にドイツのメディア「ディ・ツァイト」のインタビュー受けた際次のよ

うに述べた。「停戦合意を目的としたドンバス地方に関わる『ミンスク合意』はウクライナに時間を与えようとす

る企てだったのです。ウクライナはこの時間を利用したことによって、現在見られるように強くなりました」。す

なわち、メルケル前首相はミンスク合意に直接かかわっていたことでウクライナ戦争の淵源を知悉しており、

ネオコンが絡んだロシアとNATOの代理戦争であることを示唆したのである。

 

政治家の能力の差

一方、中立を棄ててNATO加盟を目論んだスウェーデンの元首相のカール・ビルトは、プーチンのウクラ

イナ侵攻はナチス・ドイツのポーランド侵攻と類似していると分析する。さらに、クリミア半島の併合とズデー

テン地方の併合を擬したのである。

ロシアのクリミア半島併合はNATOの軍事基地建設でロシアの軍港排除の目論見を回避するためでい

わば受け身の戦略である。ズデーテン地方の併合は逆にナチス・ドイツの拡張主義による行為なので動機

はまるで逆である。

ビルトはユーゴ連邦解体戦争中のボスニア内戦で「旧ユーゴ和平国際会議」のEU側共同議長を担ったが、NATOを主導する米国のセルビア壊滅の「新戦略」推進策に阻まれて、和平に何ら役割を果たすことはできなかった。彼は穏健保守派に位置する政治家だが「旧ユーゴ和平国際会議」において米国に阻まれた経験がありながらズデーテン地方とクリミア半島の併合の根本的な違いを擬するのは見当違いというべきだろう。スウェーデンはNATO加盟を選択したが、そのNATOのロシア包囲網そのものがこの戦争の理由の一つとなっているからだ。メルケル・ドイツ前首相とビルト・スウェーデン元首相の分析力には差があるようだ。

 

NATOとロシアの代理戦争が核戦争に

NATO諸国は2015年前後からウクライナ軍兵士に訓練を施してきたが、ウクライナ戦争が始まると米国

は新たに国内でウクライナ兵1万人に訓練を施し、英国は2万人を訓練してウクライナに送り出すと宣言し

た。もちろん、米・英はウクライナ兵の訓練だけを行なっているのではない。既に、米・英の軍事請負会社

や特殊部隊が外国から参入している義勇兵などを含めて訓練を施し、ウクライナ戦争の指導をしてきてい

る。これがウクライナ軍の善戦の理由でもあるが、それ故に長期化は避けられない。長期化して拡大すれ

ば望まないことも起こる。核戦争である。

 

メディアの劣化状態

現在「戦争の最初の犠牲は真実である」という状況下にある。ウクライナ戦争が始まるとロシア側とNATO

側に「戦争ヒステリー」ともいうべき状態が蔓延した。ロシア側は政府の方針を批判すると「西側のスパイ」と

して逮捕監禁するなどの弾圧を実施した。一方西側もロシア嫌いが顕在化してNATOとウクライナからの

情報一色となり、異論派を排除して結果的に戦争を煽っている。歴史学者のエマニュエル・トッドによれば

西側のメディアは「ロシア嫌い」の風潮が主流を占めているという。

フランスのメディアはほとんどが富豪の所有する状態へと移行しつつある。フランス政府は「ランブル」に対

してロシア発のニュースの削除を要求した。ランブルはこれに応え、フランス国内からのアクセスを暫定的に

止めることを決定した。トッドはフランスの公共放送からは出禁状態にある。彼が母国での発言をためらった

のはこのような事情があった。

スイスの元諜報機関要員だったジャック・ボーはスイスのメディアが戦争を煽り、ウクライナ戦争の意味を理

解することなく戦争のプロパガンダに加担していることを厳しく批判している。

英国でもかつては良心的として信頼されていたBBCやガーディアンも政府と同様に劣化が甚だしくなり、

ロシア嫌いの感情が主流を占めて信用できない状態にある。

米国のツィッター社は米国土安全保障省・DHSと定期的に情報を交換し、検閲していた。「1,アフガニスタン撤退時のバイデン政権の失策。2,バイデン政権のウクライナ支援。3,ハンター・バイデンのウクライナ企業との関係」などについての投稿を削除していたのである。また、世界のメディアはネオコンのシンクタンク「戦争研究所・ISW」の情報を多用しているから当然、米国のプロパガンダ機関となっている。

 

米国の権益拡張のためにノルド・ストリームを爆破

2022年9月に露・独間のガスパイプライン・ノルドストリームが爆破された。この事件について西側のメディ

アはロシアの偽旗作戦だとの信頼に値しない情報を流布させた。しかし、ジャーナリストのシーモア・ハーシ

ュがブログで米国が演習に紛れて実行したものだと23年2月に曝露する。米国政府は慌てて、ウクライナの

特殊部隊が行なったものだとのコメントを出して誤魔化した。

もとよりウクライナが単独でできるような工作ではないが、ウクライナとしては武器の大量供与を受けている

米国政府に反論できないので沈黙した。スウェーデンは事件の調査を終了させたと発表したものの内容は

公表していない。24年に至ってドイツの検察庁はウクライナ人が実行したとして指名手配したが事態は動い

ていない。

 

ウクライナ戦争はネオコンの戦争

ジョンソン英首相は22年4月に突然ウクライナを訪問してゼレンスキー・ウクライナ大統領に会い、トルコの

仲介で行なわれていた和平交渉を潰した。さらにトラス英外相が「必要とあれば核兵器の発射ボタンを押

す用意がある」と危うい発言をした。ロシアとNATOの代理戦争を当面続けることを示したものといえよう。

 

終末時計は90秒前に進む

ウクライナ戦争を受け、終末時計は90秒前に進んだ。核戦争に至る確率は高くはないにしても、それはち

らついている。

いずれにしても、戦争は破壊と殺戮の積み重ねである。この愚かな戦争は速やかに停止させることがせめ

てもの人類の理性というものだろう。しかし、西側諸国はウクライナの要請を受けて武器の供与を行なうのみ

で和平交渉を行なおうとはしていない。NATO諸国はウクライナにロシアとの代理戦争を行わせてロシアを

弱体化するつもりかも知れないが、この目的は達成されないだろう。

 

国連総会における不統一

西側諸国は国連安保理が機能不全に陥ると、総会でロシアを孤立させる手法を選択した。しかし、総会

の決議はいずれも成立したものの棄権や無投票が続出した。総会において投票が割れるのは、単なる利害

関係を勘案しての行為ではない。1955年にインドネシアのバンドンで「アジア・アフリカ会議」が開かれ「平

和10原則」が採択された。その精神が非同盟諸国首脳会議に結実し、グローバル・サウスといわれる諸国

に引き継がれているのである。

非同盟諸国は、NATO諸国のかつての植民地主義を記憶し、またNATOを主導する米国が行なってき

た中東および中南米さらにカラー革命などネオコン(米国)が関与した行為を知悉しているが故の諸国の冷

めた対応なのである。

 

批判された広島サミット

2023年5月に「ヒロシマ」で開かれたG7は目前の終末戦争に至りかねないウクライナ戦争を後目に、核

兵器の抑止力を認める形で終わった。G7に招かれたインドは、「インディアン・エクスプレス」紙で「ゼレンス

キーの存在に支配されたG7」との見出しを付け「インドはロシアとウクライナの間で、外交的なバランスを維

持しようとしてきた」と立場を明白にした。また、インドネシアの「コンパス」紙は、社説で「世界で重要性を失う

G7。米国の野心に彩られている。インド、ロシア、中国を加えなければ課題は解決できない」と正面から批

判した。「グローバル・サウス」として軽く西側陣営に引き込もうとしたG7の意図は、底意を見透かされて批判

の対象とされたのである。

 

和平を望まないNATO諸国

欧州諸国は歴史的に戦争を繰り返してきたが、このウクライナ戦争にもいきり立って冷静さが見られない。

シュトルテンベルクNATO事務総長はユーゴ連邦解体戦争では和平国際会議のEU側の共同議長を務め

ていたが見るべき成果を上げることはできなかった。NATOの事務総長になると強硬派の米国の代表にな

ったかのような言動をしている。しかし、彼は23年9月に開かれたEUの会議で「NATOをウクライナにまで

拡大しようとする米国の執拗な政策推進がウクライナ戦争の真の原因である」と口走ってしまった。これがウ

クライナ戦争の真実であり彼の本音だろう。すなわち、ウクライナ戦争はNATOとロシアの代理戦争であるこ

とを明かしてしまったのである。

NATO加盟諸国はウクライナへの武器供与を戦車から米国製戦闘機・F16へと増強し、ネオコンがらみ

の圧力に添っているので長期化は避けられない。長期戦を企図しているのは低減しつつある米国の覇権を

回復する権益確保としての一面がある。また英国はウクライナの「戦争計画」を後押しするつもりなのかそれ

とも英I国の権益を確保するつもりなのか、24年9月にジョンソン元首相や元国防相らがスターマー英新首

相に対し英国製「ストーム・シャドウ」などの長射程ミサイルをウクライナに供与するよう要請する。このように

西側諸国が長期戦を望み、和平には及び腰であるとすればインド、中国、トルコやグローバル・サウスに期

待するしかないのかも知れない。

 

冷静な国際世論による停戦への期待

戦争は膨大な大気汚染を引き起こすが、西側諸国はこの問題に引きつけて戦争を考慮する余裕はない

ようだ。この状況下では、国際世論によって停戦に持ち込まなければならないだろう。

日本では3月15日に和田春樹が先陣を切って「憂慮する日本の歴史家の会」を発足させ、14名で「日

本、中国、インドの3国でウクライナ戦争の仲裁者となることを求める」との声明を発表。さらに、5月には知識

人や市民393名がCeasefire Now! と掲げた新聞広告を出した。主旨は「この戦争はロシアのウクライナへ

の侵攻によって始まりました。いまやNATO諸国が供与した兵器が戦場の趨勢を左右するに至り、戦争は

代理戦争の様相を呈しています。核兵器使用の恐れも原子力発電所を巡る戦闘の恐れもなお現実です。C

easefire Now!の声はいまや全世界にあふれています。G7支援国は武器を援助するのではなく交渉の

テーブルを作るべき」とG7の首脳に要請した。

同じ22年5月には、駐ロシア米元大使マトロックら14名がニューヨーク・タイムズ紙に意見広告を出した。

その要旨は「NATOの拡大がロシアに恐怖を抱かせたことは否定できない。米国内でもNATO拡大の危険

性に警告を発する声もあったが後戻りできなかった。背景には兵器の売買によって得られる利益があった。

衝撃的な暴力の解決策は兵器の増強や戦争の継続ではない。人類を危機にさらす前に、戦争を迅速に終

わらせるための外交に全力を挙げることをバイデン大統領と議会に求める」と、NATOの東方拡大に戦争の

淵源があり、代理戦争を止めよとかなり踏み込んだ主張を公表している。

 

人類の利益はウクライナ戦争を止めること

ネオコンは新帝国主義的思想組織とも評される。この思想を米国のみかNATOにも浸透させ、ウクライナ

でロシアとNATOの代理戦争を起こしている。ネオコンの究極の狙いは米国の覇権の確立であり、ロシアの

弱体化と分断支配にある。戦争の先行きは予断を許さないが、地球滅亡に至らないという保証はない。どの

ような形であれ、ウクライナの破壊と殺戮を止めることおよび地球破壊を回避するためにも早急に停戦に持

ち込むことが人類の利益である。

 

米・中対立による代理戦争を日本が担うのか

ウクライナ戦争の先行きも見えないが米・中対立も先が見えない。日本政府は「台湾有事は日本有事だ」

と言いつのって沖縄の先島に自衛隊基地を設営している。米軍が訓練と称して沖縄に部隊を派遣している

ところを見ると、米国に基地建設を要請されたからであろう。

 

台湾有事を煽る米政府

米CIAは、中国が2025年か2027年に台湾を攻撃すると具体的な年月まで挙げて警告を発している。米

国内では戦争を煽る勢力が蠢いている。中国は台湾を手放すことはないが軍事侵攻をするつもりもない。し

かし、米国が手を出せば中国も応戦するだろうから、そうなると核戦争になりかねない。米国もそれは避けた

いのでウクライナと同様、日本に中国との代理戦争をやらせようということなのだろう。

米国の外交の指針を示すネオコンが集っている「フォーリン・アフェアーズ」は、この台湾有事に備えてい

る日本の首相である安倍、菅、岸田の3人を評価している。この首相経験者はいずれも防衛費を増額した。

この増額は米国の兵器を購入することに充当され、また台湾有事の代理戦争の際に、米国のCIAなど諜報

機関や軍産複合体の利権およびネオコンの要求を満たすことになる。いま日本は、米国のための中国との

代理戦争をする覚悟があるのかどうかが問われている。

 

戦争で利益を上げる米産業界

2023年10月段階で、EUは810億ユーロ(12兆6000億円)、米国はおよそ1000億ドル(14兆8000億

円)をウクライナ戦争に投じている。さらにバイデン大統領はウクライナへの614億ドルの緊急予算を議会に

要請すると発言している。驚くほどの巨額の供与である。ロシアが費やした経費は明らかではないが、西側と

同様であろう。壮大な浪費であるが、それで利益を得ている者たちもいる。軍産複合体、資源複合体、金融

複合体である。2023年には米国の武器輸出は過去最高の2380億ドルに達したという。化石資源企業も1

000億ドル以上の利益を上げている。いずれも戦争による利益である。

ネオコンのヌーランドはウクライナ戦争開戦2年目の2024年に開かれたCSISのイベントで「私たちが提

供している支援のほとんどは、実際には米国経済と防衛産業基盤に還元され、米国の雇用経済成長を創出

しています」と戦争が米国の産業発展に寄与していることを露骨に語った。

 

国連総会による停戦決議が有益

ネオコンの特質は自国の産業の利益や米国の覇権の拡大にある。したがってウクライナ戦争を止めさせ

るつもりはない。

ウクライナに停戦案を持ち込めるのはロシアを弱体化させる企図を抱いている西側諸国ではなく、中国、

インド、トルコ、そしてグローバル・サウスといわれる国々であろう。日本も西側に従属するのみなので資格は

ない。

いずれにしても、やはり国連総会で停戦を採択させることが唯一の有効な方策ではないか。ロシアもNA

TOもウクライナも第三国も核戦争を望まないことは明らかであることを思量すると、困難かも知れないが国連

総会の決議に期待をかけることが最善の策といえる。

 

ウクライナ戦争はユーゴ連邦解体戦争に淵源があるとモランが指摘

102歳になるフランスの社会学者エドガール・モランは「戦争から戦争へ」なる著書で「1999年のコソヴォ

戦争(ユーゴスラヴィア)の際、セルビアへのアメリカ軍(NATO)による空爆は、アメリカに対するロシアの不

安と警戒心を増大させた」と「ユーゴ・コソヴォ空爆」がウクライナ戦争の前段となっていることを指摘し「この

(ウクライナ)戦争は、エコロジー的危機、経済的危機、文明の危機、思想の危機などを悪化させる可能性が

ある。世界大戦を回避しよう」と呼びかけている。

 

ネオコンは人命など意に介さない

ネオコンの特質は人命を尊重するという理念を持たないところにある。常にネオコン創設の軍事コンサルタントを含む軍産複合体の受益を優先する。「獣人ネオコン」を消滅させない限りこの世界から戦争がなくなることはない。

2024年5月

「市民グループ・ユーゴネット」

*ウクライナ戦争とユーゴスラヴィア連邦期待戦争はモランも指摘しているように、密接な関係があります。

関心がおありでしたら、 yugo-net.jp/   をご覧ください。「ユーゴ連邦解体戦争およびウクライナ戦争」